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No.482「I know why」

No.482[I know why] 「いつ来てもパソコン動いてるよね?」
作業中の俺の目の前、タブレットの上にドンと座ってくれるこいつ…
まだ梅雨に入った頃だった、昼食を摂りに行く途中、雨の中で出合った。
最初は精巧な人形…と心に言い聞かせていたが、流石にそれにも限界があった。既にその自信も倒壊し”こんなんいるんだ…”という諦めにも似た納得を現在はしている。
「悪いか?これが俺の仕事なんだ…」
そう言いながら、タブレットのペンでそいつを突っつき押しのけてやる。
「あ、いたい、いたい!」
「そこ、じゃま!」
「だって、明るいトコってここ位なんだよ?」
既に生活時間が一般人と反転している俺、作業はもっぱら夜から始まり、翌朝まで…という流れである。
そして無駄な抵抗とも言える、わずかな電気代節約のために、部屋の電気は手元を照らす小さな照明とディスプレイの明るさのみ。
それで空調動かしてんだから、効能は0であった。
「ところで…」
「はい?」
「なんでここにいる訳?」
あの日、雨で移動に困っていたこいつを助けていた。
結局そのまま懐の中で眠られてしまい、お使いってやつが片付いたのは、それから随分と後のこと、結構な時間が経過した後だった。
その間、雨の中に立ちすくんでいる訳にも行かず、そのまま一度家に戻ってしまった…そしてこいつは俺の家の場所を覚え、ほとんど毎日やってくるようになっていた。
「これは重要なお仕事なんだよ?」
「人の作業を邪魔するコトがか?」
「うー…ぶつぶつ…」
ぶつぶつ口で言いながら渋々とタブレットの上から降り、別の場所に…あ!そ、そこはキーボードだっ!
「はうっ!」
”けしょ”
お約束とゆーか…ESCキーにキレイに着地してくれた…いくつかのダイアログが消滅…
「あ、画面がキレイになった」
「キレイちゃう!」
普通ならココで一発突っ込みを入れてやりたいトコだが、流石にこいつのサイズでは壁まですっ飛んで…いや、骨折とかさせてしまうか?
「だから、なんでここにいる訳?」
「お仕事で…」
「邪魔がか?」
いかん、また元に戻っている…
「あのね?」
「はいはい?」
「あなた、私とお話してるよね?」
「あぁ、暇つぶしにはなってるかもしれない」
お邪魔率の方が高いかもしれないが…
「私は何だと思う?」
「ちょーさいしんのじんこうむのうをとうさいしたまにあむけふぃぎゅあ」
「平仮名で言うな!」
一般的な捉え方をすれば、こいつは”よーせー”って呼ばれる分類なのかもしれないが…一般的かどうかは別として、この身なりとか、こんな会話のやり取り、そこからは疎い存在であるとの印象もある。
「あのね?お話できてるし、姿も見えている訳だよ…」
「そのようだよ」
「普通、私達のような存在って見えない率の方が高いの」
誰がそんな統計取ったんだ?と聞いてやりたいが、話が進展しなくなりそうなので、とりあえずやめておく。
「お化けみたいなモンだろうからな」
「…それ違うんだけど…統計上の比率は同じかも…」
ちょっと悔しそうだった。って、その比較も一体誰がやったと言うのだ?
「つまり、こうやってコミュニケーション取れてるって、私達からもあなたからも、お互い貴重な訳ですよ」
「貴重かどうかは判らないが…まぁ、普通には無い経験をさせてもらってんだろうな」
「だから婦長サンが、しばらく付いててみろって…」
「…婦長って誰やねん!」
「じょ、上司だよぉ~」
ますます妖精という存在を俗物に感じてきてしまった。

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俺の作業中、こいつは特に何かするでもなく、机の上をウロウロしたり、画面の中を覗いていたりした。
「へー、お絵描き?」
「似たようなモンだが、これはちょっと違うな…」
今俺のディスプレイの上には、某芸能人の頭の欠けた写真が表示されている。その欠けた頭の部分を描き足している真っ最中だった。
他の写真から必要部分をペーストしてみたり、あるいはそれこそお絵描きじゃないが、以前に自分で描いた絵なんかを見ながら使えそうな方法を探す。
そして、なるべく自然に見せるため、風に散っている感じの髪の毛を描いてみたり…
「太い線だなぁ」
「…」
「ほらほら、女の子の髪の毛ってゆーのは、私のような…」
「…」
「ね、全然違うでしょ?」
「サイズを考えろー!」
あぁ…一体こいつの分子構造ってどうなってんだろう?この衣類の縫製にしたって…縫い針の大きさって一体…いや、考えたトコロで種類が違うんだし…
「それにこれは拡大して描いてんだ」
「でも太い…」
恐らくこいつの髪を1本描け…となったら、1ドットでも余る。つか不可能だ。
「なんか頭痛くなってきた…」
「風邪ですか?」
「あぁ…きっと、相当タチの悪い菌だな…」
そ、こいつの爪のアカとか…
「なんで煎じにゃならんねん!」
「え!?え!?」
俺にはこいつの姿が見えてる、しかし統計的には普通は見えないと…恐らく声も聞こえてないんだろうな…
つまり今の俺をその普通の人が見てるとしたら…
「一人ボケ、一人ツッコミ…かね…」
思わず机の上に突っ伏してしまう。
「寝ちゃうと仕事終わらないよ?」
「誰のせいやーっ!」
しかし、このままでは本当に終わらなくなりそうだ。明日にはftpで送らないといけないし…
「頼む、少し集中させてくれ…」
「はーい♪」
とりあえず、困らない程度に遊ばせておく方が得策と思われた。
しかし…
「あれ?これ…」
「こ、今度は何ざんすか?」
「これこれ」
画面上の1点を指差していた。
「あん?どれだ?」
その先には、髪の毛描画サンプルにと、だいぶ前に俺自身が描いた絵が表示されていた。
「ほらほら、この人」
「人っつか、まぁお絵描きの絵なんだが…」
「婦長さん」
「はぁ?」
「なんだ、婦長サンにも会ったコトあるんだ~」
何か意味不明なコトを言ってるような気がするんだが…この絵のキャラが?似てるとゆーのか?
「これは架空キャラで…」
「あー!」
「こ、今度は何だ!?」
「おばーちゃん!」
「おば、おばーちゃん?って誰?」
今度はまた別の絵を指している。
それも婦長さん(仮名)同様、架空のキャラだったりするハズだが…
「若い頃に似てるよ~」
「俺は会ったこと無い!」
「そっくりだよ~」
「知るか!」
その後も他の絵を見ては、誰ソレだとか、なんやかやと…
確かに、妖精サンの絵とかは描いてたコトはあるし、嫌いな素材では無いんだが、いざ現物が…いや、この現物に問題ありかと思うが…
って、今は片付けないといけない作業の方が優先である。
「…ねえ?」
「あー、はいはい…」
「描いたのはだいぶ前なの?」
「…そうだな、10年前のとかそれ以上のとかあるな」
「…最近…」
「ん?」
「最近は少ないよね?」
作業再開しようとした指が思わず止まった。
「…そうだな」
何故かそんな曖昧な返事をしていた…
「どうしてかな?」
以前はバカみたいに描きまくってて…
「どうしてだろうな…」
そうしたいという希望はあるのに…
「わ、この年3枚しか無い」
恐らく、そうなっていった理由は判っているかもしれない、解決の糸口も、いつでも目の前にブラ下がっているのだろう。
「ねぇ?」
「ん?」
「私が見えてるよね?」
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