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No.481「6月と7月の狭間」

No.481[6月と7月の狭間] 「えーん」
どこからか泣き声のようなものが聞こえる。
「ひぃ~」
どちらかと言えば、情けない泣き声といった感がある。
季節的には夏を迎えそうな頃だというのに、梅雨はいつくるのか?いつくるのか?と思ってた矢先の雨。
「まぁ、降らないままというのも困りモノだけど、流石に…」
「雨降りいや~…」
どうやら、その泣き声の主も俺と同意見のようだ。
しかし、雨降りの公園の中、いつもなら子連れの主婦やら、隣の学校のグラウンドから運動に勤しむ若者の姿が見られるのだが、この陽気故、そのようなコトも無い。
周囲を見渡してもその声の主を確認するコトが出来なかった。
「やけに小さい声だよな?」
まさかこの雨の中、子供1人遊んでいるとも思えない。
俺と同じよう、昼メシを食いに行く途中…という感でもないだろう。
「あぁ…カッパじゃダメだったよぉ~」
「まぁ、なんだ…」
「長靴の中がぐしょぐしょ~」
「余程、悲惨な状況っぽいな…」
「羽が広がらない~」
「そうそう、羽はなぁ…は?羽?」
改めて周囲を見渡す。
視界を狭めていた傘を一度下ろし、公園内の木々の間や隠れかけているベンチにまで目をやる…
「お、ハトだ…」
見ると地面に1羽のハトが…
何を考えているのか、雨に打たれながらトコトコと歩いている。
「あいつが喋っていた?」
勇ましくも全身ズブ濡れのハトは、平然と俺の前を横切っていく。一瞬、ガンくれたような気もする…”傘なんぞ使いおって、情けない…”とでも言いたかったかのように…
「だったらちゃんと喋れー!」
持ち上げた右足を水溜りに叩きつけ、水しぶきをお見舞い。
”ぶわしゃ”
「くるっくー」
「きゃー」
「…きゃぁ?」
ハトはその水しぶきにも特に動揺はせず、俺に一声かけながら歩き続けていった。
「何かの修行か?…あ、いや、それじゃなくて」
ハトとは別の声が聞こえた気がする、恐らく今の水しぶきが上がったであろう方向を見渡す。
「えーん、横からも降ってきた~」
この声だ。
「ぺぺ、なんか混じってる~」
「…」
あれは鳥なのか、人なのか?
公園脇を流れる小川(っつか、用水路だろ)にかかる橋、その手すりに何か乗っていた。恐らくこれが俺と同意見の声の主…。
しかし…
「もー、散々だよぉ~」
生憎俺に”ふぁんたぢっく”などというセンスは無く…しかし、それが実物のモノなのか、誰かが置き忘れた喋るフィギュアなのかは判らないが”妖精かもしれないものらしい”というのは判断できた。
「すげーな、ちゃんと周囲の状況に反応するんだ…」
「…う?」
「最近は飲み物のキャップにも精巧なのが付いてる時代だしなぁ…」
「…きゃっぷ?おまけじゃないよ?」
「どっかに温度とか湿度を感知するセンサーが…」
「…ふ、フィギュア違う…」
「まぁ、妖精なんてコトは無いよな~♪」
「妖精っしゅよー!」
「冗談は?」
「よーせー…はっ!はうぅ!」
すごい、状況判断も出来る上、人工無能搭載のようである。お約束的反応が嬉しい。
「…あ、あの…」
「ん?何だ?」
「ちょっと傘の下に入れて頂きたいんですけど…」
「おお、錆びるか?入っていいぞ?」
「すみません、途中まで入れてって下さい~…」
手すりに立ち上がると、一度全身を震わし、羽らしきモノに付いた水滴を払い落としていた。
そしてパタパタヨレヨレと飛びながら俺の肩に座る。
「はー…参りました…」
「こんな日に一人散歩か?主人はどうした主人(オーナ)は?」
「いませんって!」
あくまで本物であると主張するようにと…きっとそういうプログラムがされているのであろう。
しかしよく出来ているな、さっきしっかり飛んでもいたしな。
「濡れずに移動できるハズだったのですが…工事で軒下が無くなってて…」
「あー、あの辺な、今道路の拡張とかで、あちこち掘り返し放題だ」
「拡張ですか?」
「2車線が4車線になる」
「うぅ…渡りづらくなる…」
雨の水滴とは違うものが、うるうると目から流れ出ているようだったが…まぁ、雨というコトにしておこう。
「で、どこまで連れて行けばいいんだ?」
「えと、お使いのとちゅ…へ、へくしゅ!」
「くしゃみできるのか?」
「できるって…こういうのは生理現象でしょう~!?」
「しょうがないな、そこじゃ雨風当たるから、こっちのポケットに入っとけ」
胸ポケットに入っていたタバコをGパンのポケットに移し、そこへと誘導してやる。しかし…
「は、入れません…」
膝までしか容積は無かった。思ったよりサイズでかいぞ?これ…
「じゃ、シャツの内側だ…」
「えぇー!?」
「バッグの中でもいいが…」
バッグの中は、ノートパソコンやらデジカメで満杯だ。
「お、お借りします…」
「あ…」
「はい?」
「漏電してないよな?」
「だから、違うってば~…」
モソモソというか、恐る恐るシャツの内側へ入り、胸元のボタンの開いたトコから顔を出す…
「はー…暖まります~」
「俺は人肌温泉か!」
と、落ち着かせたいいものの、逆に俺のほうが落ち着かない。
雨降りで人通りは少ないとは言え、やはり人形を胸元に入れて歩くには抵抗を感じる。こいつは違うと言ってるが、本物であろうと人形であろうと、俺の恥かしい状況は同位である。
こいつの行きたい場所(おそらくはメンテしてくれる主人の元)へ、とっとと連れて行くのが正解である。
「さて、で、行き先は…」
「すやー…」
「行き先…」
「すやすや…」
「…寝てる…っか、休止モード?フリーズ?」
「にゃー…」
「…」
どうすればいいか、ただ雨の中を立ち尽くす俺だった。
人形であると心に言い聞かせながら…
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