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No.474「小港の夜」

No.474[小港の夜]「あぁ…俺が悪いんだよ、そーだよ…」
時計が指し示す時間は既に深夜を回っていた。
普段滅多に行かない店に行ってみた。セッションをやってるというのも聞いてたから、一応テナーは持って行ったが、登場の機会は無かった。日が違った、そういうコトだ。
カウンターで店のオーナと、俺の隣に座っていたかなりの歳のおじいさんと話をして…気がつけばこんな時間、慌てて店を飛び出していた。
しかし、左右間違って曲がるとは思わなかった。別に相当酔ってた訳でもないのに…つーか、あの道路の交差の仕方は、昼でも迷うかもなぁ…
そのまま気付かずにいた俺もバカだ…
「あぁ…俺が悪いんだよ、そーだよ…」
何故かタクシーも少ない、客を乗せたのならたくさん通り過ぎている。それに車の通りも少ない、多いのはトラックみたいな車輌ばかりだろうか?そんな道をトボトボと歩いていた。

「うぅ…ライターも点かない…」
季節は冬、ちょっとした暖も取らせてもらえないのか?
「…あ、そか…」
思い出し別のポケットに手を突っ込む、そこには1箱のマッチ。その隣のおじいさんに貰ったモノだった。
「今時マッチとゆーのも…ま、点けばいいか」
箱自体が既にヨレヨレなマッチだった。何が描かれてるのかもよく判らない。ま、暗いせいもあるんだが…
「確かこの先を上れば公園があったよな…」
それを過ぎれば駅があったはず、俺はとりあえずそこを目指して歩いていた。
戻ってまた迷うのも困りモノだと、知ってる方向へと進むのが正解だ。

街燈の数が減り、車の通りもなくなり、辺りの光は俺の点したマッチの火だけか…そんな思いが頭を過ぎった時だ。
「…あれ?」
風にのって、聞こえる何かの音…
「楽器…の音だよな?」
それも1本ではない、いくつかの種類の楽器の音が、ちゃんとした音をつないでいる。そして、それに混じって聞こえる人々の話し声も聞こえる。
立ち止まって辺りを見渡すも、そんな一団はどこにも見当たらない、いや、そもそも暗くてよく判らないとゆーのもあるんだが…
「この辺のどっか地下にでもライブ屋があんのかねぇ…」
探すのを諦め、足を踏み出そうとした時だ、今度は間近で人の声がした。
「あら、こんな時間に…」
「へ?」
いつの間にそこにいたのか?裏路地へと続くような小さな細道に人影があった。それが女性であるのはすぐに判ったが、着衣の乱れが…ちょっとヤバイんじゃないか?
「こんな時間に一人歩きは危ないよ?おにいさん…」
「いや、それ、こっちのセリフだと思う…」
なんか勝手に会話が始まってしまっていた。
「あぁ、私?別に、いつもの格好よ」
そう言いながら肩を直している。別に変なヒトではなさそうだが、やっぱどこかおかしい…。
「暑かったから、風に当たりに出てきたのよ」
「暑い?冬だぞ?今は…」
「ん?あ、ホールがね、聞こえるでしょ?」
「ホール?聞こえる?」
いつの間にかその音は、さっきよりより鮮明に俺の耳へと入るようになっていた。
やっぱこの辺の地下に、秘密のライブハウスでもあるんだろうか?だとしたらそれって…かなりのヤバイ系か?
「おにいさん、それ…」
女性が指差す先には、さっきのマッチ。
「それ、家のだね」
「こ、こんな暗がりでよく判るなぁ…」
俺自身、見えてないのに、見えてるというのだろうか?この人は…
「家に来たんじゃないの?」
「はい?いや、マッチはさっきもらったんだ…」
「あら…残念、あ、でも楽器持ってるじゃない?ね、一緒にどう?」
ますます音は鮮明になっていた。その音は女性が立っていた小さな細道から聞こえている、よく見ればその先だけ明るい。
「ライブハウス…か?」
「ライブ?ううん、ダンスホールよ」
真っ暗な闇の先に、赤や黄色の光が揺れている、そして聞こえる楽しげな音、俺が近づいていかなくとも、向こうからこっちに寄ってきてる…そんな感覚すら覚える。
でも、何か違う気がした…
「すまん、今日は帰りたいんだ」
「…ふふ、そうかもね」
「え?」
「また機会があれば、一緒に楽しもうね」
その一言と、優しいのか寂しいのか、よく判らない微笑を返し、その女性は小道へと、その明かりの元へと戻っていった。

その後、どこをどう歩いたかは覚えていなかったが、気がつけば公園は通り抜けた後、そろそろ始発が動き出す駅の近くにまで来ていた。コンビニの店員が店の前の掃除をしている…
「…やっぱ酔ってた?」
記憶が無くなる程呑むコトはほとんど無いが…しかし、そういう無くし方だったとしたら、これだけ鮮明に覚えている女性の顔は何だろう?
「マッチか…電話番号でも書いてあるんかね…」
ボロボロの箱だったが、数字らしいものだけは読めて取れた。
「本局2の…」
「…」
「…はい?」
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