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No.456「StreetsSession」

No.456[StreetsSession] 「お疲れ様でした~」
「んじゃ、例の件は今度の時に資料持ってきて」
「はい」
はぁ、ようやく終わった。
おやつの時間から始まった打ち合わせだったが、終わりはこの時間か…もう22:00近い。宿題もいっぱい貰ってしまった事だし、今日はまっすぐ帰って早速手をつけておくか…。
6時間丸々打ち合わせだった訳では無い。その半分は先方と一緒に呑んでいたのは確かなのだが、実はこういう呑んでる中で出てくる話というのは、意外に重要なのである。お堅く会議室でやってるより打ち解けやすくなるし、場合によっては、会議では出てこない先方の本音ってのも聞けるからだ。事実そういう事は過去にだいぶあったし、とりあえずは俺の肝臓が丈夫な内はがんばっておきたい時間である。
「さて、この時間なら電車はまだ余裕だな…」
先方の社長さんを駅まで送った俺は、地下鉄の階段を下ろうと入り口へと向かった。
「ん?」
この時間でも帰宅途中のサラリーマンや、通りを走り抜ける車は多く、結構賑やかな路上。
そんな雑踏の奥から聴こえるSAXの声。
「へぇ、こんな場所でもやってんだ…」
その声に誘われるまま、人々を掻き分け、本来向かうべき方向と反対の方向へと足を進めていた。

歩道橋の柱の下。ちょっと広くなっている空間に、車のライトに浮き上がるドラムとSAXが姿を現した。
数名のサラリーマンが耳を傾けていたが、ほとんどの人たちは家路を急ぐために、そのバンドの前を足早に通り過ぎていた。
「結構イイな…」
俺はポケットからタバコを取り出し火をともす。植え込みのレンガにドカッと座り、準備万端…
「これで酒があればなぁ…」
さっきまでお客さんと呑んでたハズなのに、流石はこの時期である。既に俺の体は冷え切っていた。わずかなタバコの灯火で暖なんてとれる訳もない。
「さむ~…あと何曲位やるんだろ??」
そうブツブツ言いながらも、体は聴く体勢を崩していなかった。
こういう路上のライブは好きなのだ。もちろんライブハウスでも聴くが、こういう外での演奏というのも、音の広がり方が違って面白い。ビルに反射した音が、また反対のビルに反射し…店の機械を通してしまった音や、スタジオの音とは違う響きがある。まぁ、唯一の難点と言えば、この寒さだけだろう。

1~2曲聴き終わった頃だったか、周囲に突っ立ってたサラリーマンの姿も徐々に消え始めていた。時間もイイ頃だ。
「そろそろこの曲で終わりかな?」
何本目かのタバコを口にしていた俺は、何時の間にいたのか、隣にじっと演奏を眺めている1人の女性が立っている事に気がついた。
こういうのを聴いていると、楽器も出来ないクセに、指先や足が自然と動く…だろうと俺は勝手に思っている。しかし、その女性はじっと演奏を見つづけているだけだった。時折目の前を流れる冷たい風に遊ばれた髪を直す程度の動きしかしていない。真剣に聴き入っているのかもしれない。
「こういうの好きなんだ」
いつの間にか俺の口からはそんなセリフが漏れていた。
「えっ?」
彼女の視線がこっちを向く。
「あ、ゴメン。楽しんでるところ、悪かったな…」
「いえ…」
そしてまた演奏に視線が移る。
まぁ、こういう時には、なんとなく変な共感が生まれるモンだ。以前、他の路上で聴いてた時も、俺はいつの間にか知らないオヤジに話し掛けて、なんだかんだ笑いながら話をしていた事があった(ある時はそのまま意気投合して、明け方まで呑みに行ってしまった事も…)。
俺の中では、その時と同じノリで声をかけてしまっていたのだろう。しかし、相手はオヤジじゃなくて女性だからな…ちょっと迂闊だったかもしれん…
「演奏…」
「えっ?」
思わず声が裏返る。今度は向こうから話し掛けられてしまった。
「…されるんですか??」
「いや、楽器は出来ないんだ。いつも聴いてばっか」
「そうなんですか」
「キミは?演奏とかするの?」
「私は…あ、いえ、私も聴くばかり…」
「そか、出来るといいな~っていつも思うんだけどね」
「ですよね」
なんとなく笑顔を見れたような気がした。見知らぬ男に話し掛けられて「なんだこいつ…」なんて思われてしまうのは流石に…まぁ、会話が続いて良かった、ってトコだ。
”あれ?でもなんで言い直したんだ?”
どうでもいいようなコトに何故か意識が向いてしまった。彼女は「私も」と言う前に、確かに「私は」と言いかけていた…何か違うコトでも言おうとしてたんだろうか?
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