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No.491「過去と未来の狭間」

No.491[過去と未来の狭間]「お散歩しましょう」
誘われるがままにホテルを後にする。
2階の窓から見えてた景色は、いかにも懐かしそうな古い風景だったのに、ホテルの敷地を出てしばらく進んだそこには…
「橋だ…」
「大きいですよね」
目の前と言う程大きく見える訳ではないが、確かにそこには最近の建造物である海に渡った大きな橋の雄姿。
「ここはどこなんでしょ?」
「ご存知ありません?」
「知ってますが…」
そのまま視線を180度変えてみると、そこにはまたさっきの懐かしい風景…
ふとこの両者の境がどうなっているのか気になった。
なんとゆーか、雨降りの境目すらはっきり見たこと無いけど。
「…川」
両者の境目は川…というか、この橋が境目というコトか?
鐘野さんの言ってた話が思い出された。
「今日は久しぶりに行ってみようかしら…」
「行くって?どこに?」
「あっち」
そう言って指差したのは、その名の通りのみなとのランドマーク。
「…行けるんですか?」
「行けるもなにも、敬さんはあちらから来られたでしょ?」
「…そうですが…」
むずかしいコトはよく判らないが、タイムスリップネタの映画は、現代に戻るのがドラマであって…
「渡れば帰れるんですよ♪」
こんなにも容易く戻れるのであれば、馬と戦車が戦うコトも、蒸気機関車が爆発するコトも無かったのでは?
「…なんか拍子ヌケ…」
そう言えば、未来が過去に干渉するのは、問題と言われる…
過去が未来に干渉するのも、やはり問題なのか?
変えようは無いから問題無いかもしれんが、未来の文化を過去に持ち込むのは、やはり問題になるのではないかと…
「…おろおろ…」
「あら、敬サン涙が…」
「…おろおろ…」
「あらあらあら…」
一瞬我を忘れてしまった…
(難しいコトなんざ、考えちゃいけないな…)

「行くんですか?」
「えぇ、お買い物とか♪」
「はい?」
「たまに行くんですよ♪」
だんだん判らなくなってきた…
恐らく想像するに、寿美さんのおられる世界というのは、先夜のあの光景、現存しない街、そこだけぽっかりと取り残されたような空間…
つまりは隔絶された時の停まった空間…みたいに思ってたんだけど…
「行き来出来るって…」
拍子抜けである。
「あ、でも買い物と言っても…」
「はい?」
「お金は…?」
当時と今では全く違うハズだが…
「その時々でちゃんと換金してますよ♪」
「…そ、そうか…」
そうだな、突然60~70年も経って現れた訳ではなく、今まで継続的にきたのであれば…
案外、骨董屋に店のモンとか売りに行ってたりして…
「買い物って何です?」
「日用品と食料品だけです、お店で使うの」
非現実的かつ、非日常的体験をしているのだと思っていたのだけど…これ程現実的で日常的な会話って…

「じゃ、行きましょうか」
「…ちょっと待った…」
「はい?」
「寿美サン、その格好でですか?」
よく見れば、寿美サンはあのちょっと乱れ感漂う格好のままだった。
時間も時間だし、このままのお姿で現代に行かれては…
「人が困る、街が困る、俺が困る…」
「大丈夫ですよ♪」
「大丈夫そうに見えませんが…」
俺だって最初にこの姿を見た時には、相当驚かされたモノである。
「ささ♪」
「うわっ!」
背中を押され、橋を渡らされてしまった。
渡りきったところで、今まで聞こえてなかった車のエンジン音や街のざわめきが一気に耳へと戻ってきた。
(本当に戻れてしまった…)
「ね♪」
楽しそうな声が聞こえるが、後ろを見るのが少々怖かった。
さっきのままのお姿でこの人ごみは…
「…え、えと…」
何か言いかけて後ろを振り向こうとした時、背中にあった寿美サンの手が離れ…
「行きますよ♪」
俺の前に出ていた。
「…あい?」
「?」
「普通です…」
「ですよ♪」
どこでどう着替えましたか?
「寿美サンって…」
「はい?」
「何か星とかはぁとの付いたステッキのようなモノを隠し持ってますか?」
「はい?」
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