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No.488「NextStation」

No.488[NextStation] 夕闇の迫る頃、私はここに立っていた。
「1人だったっけ?」
「こんなに古びてたっけ?」
「こんなに明るかったっけ?」
駅舎の中に立っている…でも、さっきと何か様子が違う気もする…
「そか…乗らないといけなかったんだっけ…」
何かを思い出す…そうだ、私はちょっと乗り過ごしてしまった…そうだったと思う。
だから元きた路線を戻らないといけない…そうしようとしていたと思う。
「…うそ?」
目の前には古びた時刻表、ほとんど剥がれかけてて、何時何分に列車が来るかなんて判らない。
路線図も見当たらないし、券売機らしきモノも見当たらない。
そもそも私は何の列車に乗ってこんなところに着いてしまったのか…
「駅員さんに聞くしか…」
改札横の小さなガラス窓、時刻表同様にこれも古びて向こうがあまり見えない、でも、誰かがいるような気配はあった。
「あのー…」
ガラス窓に開けられたいくつもの小さな穴から奥に向かって声をかける。
「はい?どうされました?」
姿は見えなかったけど、誰かが返事をしてくれた。
「すみません、今来た方に戻りたいんですけど…時間は…」
「どちらです?」
「…どちらだっけ?」
自分で質問してて自分で判らない。
どこから来て、どこに行こうとしてて、どこで間違って…”そうなっていた”という事実しか頭に思い浮かばない。
「…あれ…」
「お客様はこのまま進んでいいんですよ」
「え?」
「そもそも戻る列車はここには着ませんから…進むしかありません」
「え…で、でも、私…行くところが…確か…えっと…」
行くところがあったコトは覚えてるけど、どこだったんだろう?
「行き先はここから乗る列車の行く先です」
「…」
でも違ったような気が…いや、その時には違ってたなんて思っていなかった、ただ何気にここで降りてしまったら、間違ってたかもしれない…という気持ちになっただけ…だったと思う。
「列車はどこに行くんですか?」
「判りません」
「…あのー…それって…」
「お客様がお決め下さい」
最もか…列車に行き先を決めてもらうなんておかしい、自分の行き先があるから列車を使うんだから…
でも、私の行き先ってどこだったのだろう?それが判らなければ切符も買えない。
「もうすぐ着ますよ、列車は…」
「え?あの、その…行き先が…どこまでの切符を買えばいいのか…」
「あぁ、切符は…」
ガラスの奥でパチンという音が聞こえ、ガラス窓の下にあるちょっと開いた部分から1枚の切符が差し出された。
「この駅からの最後の1枚です」
「え?」
「この1枚を最後に、この駅は今日で終わりですから」
記念切符だろうか?でもこれじゃ行き先は…
「えと…おいくら…」
「差し上げます」
「…どこまで乗れるんでしょうか?」
「この先ならずっと、あぁ、ここより前の路線も今日で終わりですから、反対には進めませんからね」
「…」
やがて列車の音が遠くから聞こえてくる。
この路線、この駅、最後の列車、ここで1晩明かしても、明日は無い…私には今やってくる列車に乗る以外の選択は無い…
「では…お言葉に甘えて…」
そう言って、差し出された厚紙の切符に手を伸ばした…
「ちょっとぉ!?何してるの?」
甲高い声に突如呼び戻された感じがした。
「…あ?あれ?」
気がつくと私はダンボールで蓋のされた窓に手を伸ばしていた。
”券売機はあちら”
マジックで書かれた文字と、どうやら指差しているように見える絵…指が6本ない?これ?
「…切符…」
そこにはさっきの厚紙は無かった。
「初めて見たよ?」
「え?何を?」
「そこで切符買おうとする人…」
甲高い声の主は私の友達…そうか、そう言えば私、彼女とお出かけしてて…電車に乗ろうとしてて…
ダンボールの裏は昔の券売窓口…
「えーと、ここからだから…」
友達は路線図を料金表を見ながら行き先を確認していた。
「うん、あと10分で急行来るか、それに乗ろうよ?」
そう言ってこの駅舎にはあまり似合わない、真新しい自動改札にカードをかざして通り抜けていく。
「早くきなよー」
「あ、待って~」
誕生日だからどこかにお泊りで遊びに行こう…と、友達を誘ったのは自分だった。
全く、何をボケてるんだか…折角の記念日、同じ歳の同じ記念日は、もう二度と無いというのに…
「…あ…」
ふいにさっきの駅員さんとの会話が頭の中に蘇る…
”戻るコトの無い、行き先の判らない列車”
振り返った改札口で、手を振っている駅員の姿が見えた気がした…
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