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No.476「もうひとつの夜」

No.476[もうひとつの夜]街中の空気は冬の香りを強調していた。
その女性はじっと目の前を見つめたまま立っていた。
後ろには彼女の住む世界、正面には俺の住む世界、わずか数メートルの橋で結ばれていた。
「変わってしまうものですね…」
寂しそうに呟く。今目の前の風景は、彼女にとってどのように映っているのか?俺には知る由が無かった。
「でも、これが今です…俺が生きている…今の世界です」
「でしたね…」
大きな通りにはたくさんの車が行き来する、人々も数多く往来し、様々なものが今ここで生きている事を主張していた。
しかし、彼女が生きていたという証のものはそこには無い、それが今の風景。彼女の証は後ろにしか無かった。
「楽しくいたかっただけなのですけどね…」
それはついさっきまで二人で交わしていた会話の延長だったのかもしれない、
俺と同じような事を思っていた彼女だった。だから俺も同意できたし、彼女の世界を覗いてもみた。
「私はあの場所が好きだったし、そのままの場所がずっと続いてくれればと…ただそれだけだったのですけどね」
俺の服を掴む彼女の手に力が込められていた。
「そこにずっと居続けたいというのは無理な話でしょうか?」
「…そうは思いませんよ、俺も…」
「あなたも今の時間がこれからもずっと続く事を望んでられますよね?」
確かに…それは嘘じゃない。みんなと共にワイワイやって、そして成長してゆく…望めばそこに変化を自ら与える事も出来る、みんなで世界を作っていける。
だが…彼女はそれが出来なかった。やらなかったのではなく、やれなくなってしまった。ある日その崩壊してしまった彼女が生きていた世界。
残ったのは”そうしていたかった”という彼女と、彼女の周囲の人達の強い意志。それが今、後ろに世界を開いている。
「私はそう願うのに、周りは変っていきます、それが自然の流れならそれに乗るのもいいでしょう…しかし、望んでもいなかった無理やりの変化にまで従う理由はあるのでしょうか?」
俺には何も言えなかった。
そこには最初に会った時の、あの楽しげな音と人々の笑い声が、より鮮明にあった。あと2~3歩戻れば、俺もその世界の中へと入れる距離。
しかし…
「そろそろ帰るよ…」
そっと一言告げる。
ここは俺のいる場所ではない、それが判るから…
「…そう、ね…」
彼女もそうゆっくりと応えた。
「じゃ…」
今までいた場所と俺の場所とを繋ぐ橋を歩みだす。
「あ…ねぇ?」
「ん?」
「ここなら…そう、ここにいれば、ずっとその通りでいられますよ?」
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