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No.497「They can't take」

No.497[They can't take] 「好きなのをやります♪」
ニッコリ微笑みながら、そう伝えるも、寿美サンの好きな曲って、俺は知らないんだが…
「敬さん、歌伴は?」
「たまにやってました」
尤も、宏美の歌伴の場合、曲は決まっていたから、俺のレパートリもその辺に限られてしまうのだけど。
知らなくても、なんとなく付いていける自信はあるものの、ジャンルが異なるとそれも難しい…
「えーと…」
「敬さんなら、多分お聴きになった事があると思います」
「そうですか?」
などと確認し合うより何より、始めちゃった方が判るのも早い、ピアノは早くも前奏を始めていた。
「わ、始まっちゃった♪」
そう言ってピアノの横に立つ寿美サン、何気に腕を振りながら出だしを合わせている。
「あ…これ…」
知っている曲だった。
ママが歌ってたのを聴いたコトあるし、以前に宏美も歌ってたんじゃなかったかな?
実際に演奏されている速度の3倍位で脳内再生…
「…うん…うん…うす」
曲目は忘れたけど(をい)、吹いた記憶はあった。
「”入れます”」
コソコソっとピアニストに耳打ち…
「”んじゃ歌の後のソロんトコで”」
「”へい…”」
目配せと、小声で全部のミュージシャンに伝達…っても、小コンボで、管が俺と入れ替わるだけ…
問題はどう吹くかだけだけど…幸いにしてソロだったので、なんとかなりそうだ…
「”んじゃ、竹中クン、そろそろ…”」
「”あい…”」
”もきょ~”

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”ぱちぱち”
静かに終わった歌。
何気に拍手も静かだったりして…
笑顔で小さく頭を下げている寿美サン、他のミュージシャンは楽器を置いたり、まだ持ってたり、レコードに手をかけようとしてたり…
が…
「あれ?」
それらの動きも寿美サンの次の行動で全て変わった。
スタスタとホールの真中まで進んで…クルっとこちらにターン…
その勢いのまま、寿美サンの片足が頭の上にまで上がって静止…静止!?
”だん!”
「How about music?」
”ぺんぽろ、ぺんぽろ、ちゃーん…”
振り下ろされた足の合図に合わせ、さっきよりちょっとアップテンポな曲が始まった。
”だん!かつ、かつかつつ、たた…”
「うわ!」
モノすごい速さでタップが始まってしまった。
つか、なぜその靴で音が出ますか?
「あ、寿美サンの靴って裏に板貼ってあるよ?」
一体俺はどんな顔してその姿を見ていただろう?
突っ立ったままの俺に、他のミュージシャンが話し掛けていた。
「…知らなかった…」
知らなかったと言えば、やけにドレスのスリットがアレとは思ってんだけど…このパフォーマンス見てると何気に納得してしまう。
いや、服はともかく、体柔らかすぎではないでしょうか?後ろから見てて、頭上につま先が出ているとか…
「…これが音羽サンだったら、そのまま俺の顔面に振り落とされるんだろうな…」
(そもそも上がらないかもしれないけど…)
「…彩サンならあの位、チョコマカ動きそうだけど…」
(やっぱ足上がらないって…)
いつの間にか、周囲のお客もリズムに合わせて合いの手を返してたりして…
「こんな楽しいパフォーマンスがあったんだ…」
ふと頭に浮かんだ一言をそのまま口にしていた。
いまだ明確でない、今俺のいる時間と場所、なんとなく判っている時間がそうだったとして、そんな頃にあったのか?という印象からだった。
「すごいな…誰に習ったんだか…」
「うん?寿美さん独学だよ?」
「…は?」
「映画観て真似したんだって、すごいよね?」
凄すぎじゃないでしょうか?
俺なんか、DVDで何度再生したって判らないだろう…それに体も動きません…
つか、なんてー映画観たんだ?
そう言えば前に宏美がMCで、そんな映画があるようなコト言ってたけど、この時代の日本で上映されてた?
記憶の中の乏しい年表を広げてみても、どうもしっくりこない。
「…ダメだ…」
混乱の度を増しただけだ。
「敬さん、敬さん…」
「…あい…」
「踊りません?」
「…足が肩から生えてるように見えるんですけど…」
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