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No.454「MY FOOLISH HEART」

No.454[MY FOOLISH HEART] 「ふぅ…」
帰宅して着替えもロクにしないまま座り込んでしまった私。
大きく1つ溜息をつき、コンポの電源を入れる。
目の前には近々リリースされる自分のCDが何枚か転がっている。ついさっき、受け取ってきたばかりのCD…。
自分にとっての初めてのCDデビュー、昔、夢にまでみていた事のはずなのに…
夕日の差し込む部屋。

最近はレコーディングや店頭ライブ…忙しいと言えば忙しい時間ばかりだった。こんな風に部屋の中で光に包まれるなんて、本当に久しぶりだ。
でもそれらを苦労とは感じないだろうと過去は思っていたかもしれない。現に今も歌っている事に対しての充実感は十分にある。でも…
「また…離れちゃうのかな…」

自分のCDを1枚手に取り、ジャケットを眺める。
"MY FAVORITE THINGS"
私が子供の頃から好きだったあの歌。それがアルバムタイトルになっている。
出せた喜び、いくつもの充実感…それらは決して嘘では無い。アルバム制作に携わってくれたミュージシャンやレコーディングスタッフ…その他大勢の、そして様々な人々…嬉しい事のはずなのに…頭の中をそれらとは違う感情が横切る。
「…違う…」
窓の外に広がる夕闇を見つめる。ふとこの間の夜の事が頭の中によみがえる。
最後まで無口だった彼の横顔…
「…違う…」

部屋の中に流れ出す音楽。自分のCD?いや、今は聴きたくなかった。
手近にあったCDをそのままセットしていただけ…それは自分の気持ちを落ち着かせるためにかけたはずなのに…
流れ出すエバンスのアルバム。ワルツ フォー デヴィー…
「MY FOOLISH HEART…」
アルバムの1曲目が流れ始める。
エバンスのピアノの流れが静かな部屋の中に響き渡る…
「…違う…」
ばかなのは私自身なのだと思う…
彼は私をしっかり見送ってくれたのに、いつまでもそこに甘えたがっている私がいる。
甘えてちゃいいけない…それを彼は伝えていたのだと思う。
判っているよ…
判っているんだよ…
でも
「…違う…」

最後に会った時の彼の姿が脳裏に浮かぶ。
テナーを口にし、静かに音を奏でていた姿が…
「…そうだよ…ここにいないんだよ…」
レコーディングメンバに彼の名前は無い。
私が本当に夢見ていた事。彼と一緒のステージに立つとこ、彼と一緒にレコーディングすること、彼と一緒に…
思えば思うほど、色々な感情が入り乱れる。
「…違う…」
自分が手に持ち、自分が見つめる、自分のCDが揺らぐ。
頬の上を伝う、数え切れない何か…
「…一緒に作りたかった…」
指の間をすり抜け床に落ちるCD。その音がかかっている曲に不協和音としては妙に空虚に響いた。

「…なんでこんなのかけちゃったんだろな…」
アルバムはもう終わり近くに差し掛かっていた。
「テナーが入ってないじゃない…」
苦笑しながら…でも何か動こうとしている訳でもなく、ただ宙を眺める。
「敬クン…」
その一言を待ってたかのように、断続だった何かは止め処なく頬を伝いだしてしまった。
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