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No.494「透き通る白さ」

No.494[透き通る白さ]「…」
窓の外から差し込む光が、いつになる白っぽくもさっぱりに感じた。
「もう少し…」
この白っぽさは恐らく、朝日が彩サンのキャンバスに反射しているから…そういつも通りに思った。
「…いや、待て…」
まだ1割位しか目覚めていない頭に何かが過ぎる。
「…ここどこだったっけ?」
俺は昨晩家に帰っただろうか?
俺は昨晩何処に行ってただろうか?
いつもの寝床に比べ、何気に気持の良い布団。
いつもの寝床に比べ、何気に地上高の低い位置。
「…」
日の光はますます強くなっていく。
この位明るいというコトは、既に昼近くなのかもしれない…
「…おやすみ…」
昼は寝る時間、これが俺の正常な生活ペースだ。
「…ます…」
何か聞こえた。
「…」
「…よう…います」
女性の声という以外、それが何かは判らなかった。
”よういいます…”って、関西系のお方?
「…」
「…あさですよ…」
彩サンがこんな風にゆっくり俺を起こすハズが無い。
音羽サンがこんな風に静かに俺を起こすハズが無い。
宏美は…俺が起こしていた…
「…」
が、これはもしかしたら何か罠を仕掛けてて…次の瞬間…
”すく”
「わ」
腰を軸に、上半身を垂直に起き上がり…
「でゅあ…」
そのまま身構えてみる。
「え?え?」
「…」
「あらあら?」
「…おやすみなさい…」
今度はそのまま上半身を下ろし、布団に横たわる…
(我ながら恐ろしい腹筋と思いつつ…)
「朝ですよ、敬さん?」
「すみませんでした…寿美サン…」
「いえいえ♪」
今度こそちゃんと(普通に)起き上がった。
「もしかして、毎朝こうですか?」
「9割は…」
「凄い起こされ方をされてるのですね?」
「8割は…」
クスクスと笑う寿美サンの顔は、朝日に照らし出されているせいか、とても白く…
実は溶け込んでいるんじゃないかと思える程に透き通って見えた。

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窓へと寄り、そこからの表の景色を眺める。
夜の景色しか見ていなかったから、周囲の状況が判りづらかったけど、今なら位置関係なんかはっきり出来るかもしれない。
「…ここからは何が見えるんだろう?」
「港か見えますよ♪」
後ろから寿美さんが説明…
はて?
「…この会話、どっかで聞いた覚えが…」
「そうですか?」
いや、会話じゃなかったかもしれないが…なんか耳に残ってる感じがした。
「…残ってるんじゃなくて…」
「はい?」
「ELAか…」
「?」
そか、曲に聴き覚えがあったのは、ELAのBGMに、牧子ママがよくかけてたからだ。
前に宏美とおっちゃん等のセッションに巻き込まれた時にもこんな歌詞があった気がする。
「何か?」
「たいしたたまげた…」
「??」
「いえ、何でもありません…」
とりあえずそこで会話を切って、窓を開く。
開放と共に、遮蔽物を取り除かれた朝日が、まるで光の塊となって移動してきたかのように…
室内の壁や装飾品に反射しながら、複雑な光を放つ…そして香る海の潮…
確かにそこからは港が見えた。
「…見えすぎだよ…」
だが、港の上を横切る高速道路や、工業地帯の埋め立ては確認出来ず、小さな森のようなモノの先は海…
こんなに海岸線って近いんだったっけ?
「いつベイブリッジは無くなったんだろう…」
「べいぶりっじ?」
「ランドマークタワーはホテルと合体して宇宙の彼方へ…」
「??」
「…」
まだ眠っているのかと思ったが、この爽やかさは起きているとしか思えない。
頬をつねれば、見事なまでに痛みが伝わる。
香る空気も、車の排気ガスとか、何か判らないような臭いの混じった空気ではなく、直接の潮風にも近いような…
「…いつなんだろう…」
ここを含む周囲はホテル街なのだろうか?似たような感じの建物が多く立ち並んでいた。
そして目の前の道路を右から左へと走り抜けた車、路上を歩く人の格好…
そう言えば、この間調べた古い地図では、海岸線の位置が今と全く違っていたのを思い出した。
「…」
総合的に判断すれば、これは…異次元世界では無く…
「…大正?昭和?…」
マッチと時期が一致してしまったでわないか…
普通ならここで青ざめたり、おどおどしたり、慌てふためいたりするのかもしれないが、不思議とそんな感覚は無く…
恐らくはこの爽やか過ぎる感じの方が何より強かったのだろう。
その爽やかな空気を大きく吸い込んで…
「ねぇ、寿美サン…」
「はい?」
「今日は何年何月何日でしょ?」
素直な疑問、というか、他に聞きようが無い。
「どう思います?」
「いえ、どうって言われても…見たまま…」
「そうですね」
そうですねと言われても…
これは何だ、いわゆる過去へ戻ってしまったってーやつなんだろうか?
車にも乗ってないし、地下鉄にも乗ってないし…橋を渡っただけだったのでは?
あぁ、それが本来の感覚を鈍らせている、もう1つの要因なのかもしれない。
「どこかに学習机が…」
「??」
いや、もしかして大掛かりなイタズラなTV番組!?
左の端から右の端まで俺の視界にあるモノ全てが作り物とか…
「それって何キロ分?」
このセットを仮に作ったとなれば…どれだけの土地買収が必要か?
しかも一瞬で舞台装置を切り替えるなんて芸当は?実は寝ている間に、どこかに運ばれた?
「いりゅーじょん?」
「朝食いかがですか?」
「…」
「コーヒーとトーストですけど…」
”ぐ~…”
「…」
俺の腹が低音を響かせた。
「あらあら」
パニックも空腹には勝てないようだった。
「頂きます…」
とりあえずここはじっくり落ち着いてから考えるべきと、俺は寿美サンに手を引かれながらホールへと降りていった。
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